中小企業と大企業のPMIの違い
M&Aの成否を分けるのは、契約後の統合作業であるPMI(Post Merger Integration)にあると言われます。特に、近年増加している中小企業のM&Aにおいて、「PMIがうまくいかない」という声は後を絶ちません。
その大きな原因は、大企業向けのPMI手法を、そのまま中小企業に当てはめてしまうことにあります。大企業のPMIは「統合プロジェクトを完遂してシナジーを創出する」ことが目的であり、「プロジェクトマネジメント能力」が重要であることに対し、中小企業のPMIは譲受企業に課題が多いことが多く、まずは「事業再生」を主に行う「経営コンサルティング能力」が必要となります。
この記事では、大企業と中小企業のPMIが具体的にどう違うのかを比較し、それぞれの成功の秘訣を明らかにします。
大企業のPMI
大企業のPMIの目的は、事前に策定された計画に沿って「経営統合」「業務統合」「信頼関係の構築」を完遂し、
計画通りのシナジーを創出することです。
●経営統合
グループ全体のシナジーを最大化するため、新たな経営体制や意思決定プロセスをトップダウンで迅速に構築します。強力なリーダーシップが不可欠です。
●業務統合
ITシステムや人事制度、会計基準などを統合します。専門のPMIチーム(PMO)を設置し、詳細な計画のもとで体系的に進められます。
●信頼関係の構築
異なる価値観を持つ従業員の一体感を醸成するため、統合後のビジョンを繰り返し発信し、丁寧なコミュニケーションで不安を払拭します。
大企業のPMIで求められるスキル
大企業のPMIで求められるのは、この大規模な手続、運営をスムーズに行う
計画通りに完遂するための 「高度なプロジェクトマネジメント能力」です。
中小企業のPMI
一方で、中小企業のPMIは、事業の立て直しから始まることが多く、その性質は大きく異なります。
大企業PMIとの違い①【中小企業のPMIは譲渡企業を完全に吸収しない】

まず、M&A後の統合形態から、大企業とは目指す方向が違います。 左図が示すように、中小企業や個人が行うスモールM&Aでは、譲渡企業を完全に吸収するのではなく、独立性を維持するケースが主流です。 図の③~⑤のように、スモールM&Aでは譲渡企業(B社)を買い手(A社)から独立した法人として維持し、新社長(個人を含む)が経営を引き継ぎます。 これは、大企業のように完全な経営・業務統合を目指すのではなく、統合は管理業務のみなど一部に限定するケースが多く見られます。 これは、まず最優先されるのが、譲渡企業の独立性を保ち、経営を安定させることとなるためです。 社風や従業員の雇用を守り、譲渡企業の価値を損なわないことが重要視されます。 そのため統合も、会計基準の統一や共同仕入れといった効果の出やすい部分に限定した、緩やかな連携から始めることが多くなるのです。
大企業PMIとの違い②【中小企業のPMIは譲渡企業に問題がある場合が多い】

中小企業の譲渡案件には、赤字経営、実態を正確に反映していない会計処理、管理体制の未整備といった特有の経営課題を抱えているケースが少なくありません。 そのため、PMIはシナジー創出を語る以前に、まず事業を立て直し、経営基盤を安定させることから始める必要があります。 M&A専門家の間で「シナジー効果は期待しない方が良い」とよく言われるのは、こうした状況が背景にあります。 重要なことは中小企業や個人のM&A、PMIの実態に合わせたPMIを実施することです。 これにより、買収した企業の価値向上、および自社とのシナジー効果を発揮することができるのです。
中小企業のPMIで求められるスキル
中小企業のPMIで求められるのは、譲渡企業の課題診断から経営改善、
さらには譲受企業とのシナジー創出までを一貫して実行する 「経営コンサルティングのスキル」です。
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中小企業と大企業のPMIまとめ
大企業と中小企業のPMIの違いをまとめると、以下の表のようになります。

中小企業のM&Aで成功を収めるためには、この違いを明確に認識することが不可欠です。 大企業的な「統合プロジェクト」を持ち込むのではなく、一社の「経営者」として課題に向き合い、事業を立て直す。その視点こそが、スモールPMIを成功に導く鍵となるのです。 当社では、プロの経営コンサルタントから活用される書籍の著者自らが、中小企業のPMIを直接サポートいたします。お気軽にご相談ください。





